東京都心の天然温泉として親しまれた「麻布十番温泉」(港区)が今月末で約60年の歴史に幕を閉じる。建物と設備の老朽化、従業員の高齢化に加え、最近はお台場の「大江戸温泉物語」に代表される大規模施設に押されて入場者がピーク時の3割程度に落ち込んだ。しかし、閉店決定後に「やめないで」といった常連客らからの声が殺到し、「これほどまでに愛されていたのか」(平岡久枝社長)と関係者を驚かせている。
閉店が報じられた今月中旬以降、店内の電話は鳴りやまない状態という。「もっと続けてほしい」「残念だ」と閉店を惜しむ内容で、平岡さんは「静かに終わりたいと思っていたので、少し戸惑っています。ただ、これほどまでに愛されていたのかと思うと、お客さまには感謝の気持ちでいっぱいです」と声を詰まらせた。
この場所ではかつて、平岡さんの父、徳次郎さんが銭湯を経営していたが、1949年、地下500メートルの温泉を掘り当て、温泉施設へと業態を変えた。67年に現在営業している鉄筋コンクリート4階のビルを建設し、1階を銭湯「越の湯」、45畳の大広間を備えて娯楽色を強めた3階を「麻布十番温泉」とし昼の11時から開いていた。
湯は茶褐色、泉質は「重曹泉」(緩和低張性冷鉱泉)で、ヒステリー、神経衰弱、やけど、関節リウマチ、神経痛、冷え性に効果があるとされる。4人入れば“満員”になる3メートル四方の小さな湯舟で、古きよき街の温もりを感じさせてきた。・・(夕刊フジ)


